Masuk「あのね、みんなに報告があるんだ」
朝食の席。みんなが揃ってるときに昨日の夜により姉に相談したことを打ち明けることにしたわたしは緊張しつつも一気に告白した。
「じつはね、女性ホルモンが多く分泌されるとまれにあることらしいんだけど、わたし、胸が出てきてブラをしないといけなくなりました……」
気持ち悪いとか思われたらショックだなーと思いながら俯いていると一番最初に口を開いたのはひよりだった。
「知ってるよ」
へ?
「ゆきちゃんに抱き着くたびだんだん柔らかいものがあたるようになってきてたからね!やぁらかくて気持ちいいんだ」
その測定のされ方は恥ずかしい!でもだからってひよりにハグ禁止なんて言ったら泣いちゃうだろうしな。せっかくかわいい妹がなついてくれてるんだからそれくらいは我慢するか、お兄ちゃんだしね。
予想外の答えに錯乱。
「わたしも知ってた」
あか姉も!?
「ゆきの服を選んであげる時、最近大きくなってきてたことに気づいてたよ」
あーそれは納得。
「わたしも当然知ってましたよ!わたしのゆきちゃんセンサーに狂いなどありません。今は78のBといったところですね」
昨日より姉と測った数値に完全に一致してる!その見抜き方はちょっと怖いよ、かの姉!あとさらりとサイズを公表しないで!
「なんだよ、気づいてなかったのわたしだけかよ」
まぁより姉は細かいことを気にしない大雑把な性格だからわたしの体の些細な変化にまで気が付かないだろうと思う。
というよりもそんなに目立って大きくなってるわけでもないのに他の姉妹が知ってたことの方が驚きだよ……。太ったりしたらすぐにバレそうだ。
「男なのにブラジャーするとか気持ち悪いって思ったりしない?」
引かれたりしないか心配だったので率直に聞いてみた。
「そんなこと思ったりしないよ!逆にゆきちゃんの美貌にさらに隙がなくなっていくなってうらやましいくらい」
「いよいよ完全体に近づく」
変身していくみたいに言わないで。わたし第3形態とかないよ?
「さすが神が与えてくれた最高傑作です!」
それはいくらなんでも大げさ。
みんな肯定的にとらえてくれてるのでそこは一安心したけど、むしろ私の体がどんどん女体化していくのを歓迎すらしているようでちょっと複雑な気分。自分がだんだん得体のしれない生物になっていくみたいだ。
「ブラはいつ買いに行くの?」
いつも服を買う時は一緒に行ってあれこれと選んでくれる、もはやわたしのコーディネーターと言ってもいいあか姉が質問する。
「今日の講義は午前だけで終わるからとりあえずすぐに必要な分は今日わたしが昼から買ってきとくよ。当面の分だけ買ってくるからまた茜が次の休みにでも一緒に行って選んでやってくれ」
「わかった」
自分の役割を取られるわけではないとわかってあか姉は満足げ。
「ゆきちゃんの初ブラ選びわたしも行きたい!」
ひよりも興味津々といった感じで手を挙げる。なんでみんなわたしの服を選ぶの好きなのかなぁ。しかも今回は下着だよ?照れたりしないのかな。
わたしは恥ずかしくて仕方がないんだけど。
「じゃあ今週の休みに3人で買い物に行こうか」
「わーいたのしみ!」
「腕が鳴る」
週末の予定が決まった。
「あと、昨日は1万人突破の生配信やっちゃったからできなかったけど、今日の動画投稿ってみんな見に来るの?」
緊張の瞬間が去ってどうにか落ち着きを取り戻したので約束していたことを確認する。
「もちろんです」「当然だろ」「もちろん!」「愚問」声は揃ってないけど投票内容は全会一致の模様。
「じゃ、晩御飯食べてちょっとしたら撮影に入るよ。声かけるからみんな揃ってスタジオに行こうか」
今度はみんなそろって「はーい」と元気な返事。弟が歌って踊ってるのを見るのがそんなに楽しみなんだろうか?まぁひよりは昔から収録を見学するのが大好きだったけど。
学校は何事もなく平和に終わった。
さすがにまだノーブラ状態なので胸が大きくなってきたという報告は明日に伸ばした。
そこまではよかったんだけど、事件は家に帰ってから起こった。
今週とりあえずをしのぐためにより姉が買ってきてくれたブラにとんでもないものが混入していたのだ。洗い替えも必要だということでとりあえずシンプルなスポブラ3枚。
これは年齢相応なものだからいいとして。
その横に男のわたしが見ると赤面してしまうようなセクシーな黒と赤のブラが1枚ずつ。上半分透けてるし……。
「より姉、自分の分も混ざってるよ。こんなところに放置してないでちゃんと自分の部屋に片付けておいてよ。目のやり場に困るってば」
ソファに寝転がってテレビを見ていたより姉だったけど、わたしの苦情を聞くなり起き上がってこちらに向けたのは満面の笑顔。
その笑顔からは嫌な予感しかしない。
いやな予感と言うのは当たるものでより姉の口から出てきたセリフは「何言ってんだ、全部ゆきのために買ってきたんだよ」
オーマイゴッド。
やはり頼む相手を間違えてしまったのだろうか。当の本人は実に嬉しそうな顔をして「試着してみてよ」なんて吞気なことを言っている。着るの?これを?わたしが?
「イヤイヤイヤイヤイヤ、気は確かですか?わたしまだ13歳の男子中学生ですよ?このデザインはいくらなんでもないのではないでしょうか……」
思わず敬語になってしまったが、より姉はというと本気で何を言っているか分からないというような怪訝な顔をしている。
その表情をしたいのはこっちだよ。
いわく、学校には派手なのをつけていくと校則違反だとか言われそうだから地味すぎるくらいのを選んだけど、プライベート用はしっかりオシャレしないと、とのこと。
いや、オシャレどころかもはやエロイんですけどこの2点。
「オシャレしないとってとこまでは理解できるけど、だからといってなぜにここまでセクシー下着をチョイスしたのかがわからないんだけど」
というわたしの常識的なはずの質問に対する答えは「ゆきに似合うから」という実にシンプルなもの。どう考えたら中学生に似合うという考えに至るのかは理解しがたい。
ここはいつもわたしに年相応な服を選んでくれている常識人であるあか姉に助けを求めるしかない。
「あか姉からも何か言ってやってよ。これはいくらなんでもわたしには大人すぎると思うでしょ?」
あか姉とひよりはさっきからわたしとより姉のやりとりを無視して問題のブラを手にして何も言わずに考え込んでいる。きっと呆れているんだろう。2人はわたしの味方だよね?
「似合う」
たった一言で裏切られてしまった。一番頼りにしていた人が賛成派に回った焦りで膝から崩れ落ちそうになるのをこらえて、なんとか説得を試みる。
「あと何年か経てば大丈夫かもだけど、さすがに中二でこれは早いと思わない?」
「ゆきはあどけないところもあるけど、雰囲気が大人びてるから下着はこれくらいのを着ていても何も違和感がない。」と言い切られてしまった。
ジーザス。
絶望に突き落とされそうな気分のわたしに追い打ちをかけてきたのはさっきまでずっと静かだった最愛の妹だった。
「ゆきちゃんがつけてるのを想像してみたけど、絶対似合うと思うよ!てゆーか1回つけて見せてよ!」
あぁ、なんて純真無垢で己の欲望に素直な提案なんだろう。きみの目の前にいるのはれっきとした男でお兄ちゃんなんだよ?
すこしくらいは心情を忖度してくれてもいいんじゃないのかね、妹よ。
しかしここにきて賛成派がすでに3人。
かの姉が帰ってきてないからまだ3対2になって最終的に両親の大人な意見で逆転できる可能性もある。でも現状反対派はわたし1人のみで圧倒的に不利な状況。
さらにひよりの発言によってなにはともあれ1回試着してみないとわからないという結論に至ってしまっている。
はじめてスカートをはいた時の事を思い出した。あの時は家族全員一致で似合うという結論が出てわたしのクローゼットにスカートが追加されていくようになってしまったのだ。
つまりこうなってしまうと逆らえない。
早く来てみろと姉たちに急かされるまま脱衣所へ例のブラと共に押し込まれてしまった。
しばし逡巡のあと、男なんだから上半身の裸を見られたってどってことない!これはネタなんだ!と自分に言い聞かせて正気へ戻る前に一気に着替えてしまった。
「着替えたよー……」
着替えるまではできたがここからさらにそれを姉妹の前で披露するという難関が待っている。
いくら開き直ったところで恥ずかしいもんは恥ずかしい!しかし悩んでる時間はわたしには与えてもらえなかった。
ドアノブを握って固まっていたところにより姉が容赦なく乱入してきてあっという間に連れ出されてしまった。
「うひゃあぁぁぁぁ!」
女の子のような悲鳴を上げて胸を隠して座り込んでしまった。
反応が完全に乙女やん。
妹も見てる前で兄としてこれではメンツがたたない。なんとか立ち上がり、隠していた腕を離したけどつい恥ずかしくて手を前で組んで少しでも隠そうとしてしまう。
顔から火が出そうなほどの羞恥に耐えながら披露したわけだけど、自分から感想をきくなんてできるわけがない。そのまま固まっているとひよりが感極まったかのように叫んだ。
「めちゃくちゃ似合う!大人っぽくてセクシーだよ!ゆきちゃん!」いや、セクシーは求めていないのよ……。
「まさかここまで色っぽくなるとはな、予想以上だぜ」「鼻血出そう」姉2人も悶絶している。
「ゆきちゃんも自分で見てみなよ、ほら!」
とひよりが玄関に置いてある姿見を持ってくると同時にかの姉も帰ってきた。かの姉はわたしの姿を見るなり明らかに目の色が変わってしまって、「あらあらあらあらまぁまぁまぁ!」と完全に興奮していて感想を言う余裕すらないようだ。
あ、これ聞くまでもない反応だ。
これで両親に頼っても逆転することはできなくなった。実のところお父さんはともかくお母さんに関しては絶対賛成派にまわるだろうということは容易に予想できてたんだけど。
家に帰ってきていきなり弟がブラをつけてたら普通の家庭なら家族会議もんになるんじゃないかなぁと意識を遠くに飛ばしながら現実逃避していると、ふとひよりが持ってきてくれた姿見に目が向いた。
腰まで伸びたロングヘアにくびれたウエスト、ヒップから足にかけての曲線も文句なしでまるで雑誌のモデルを見ているかのよう。
そして胸元には大人びた黒のブラジャー。
我ながら思わず色っぽいと思ってしまった。姿見を見て赤面しているわたしを見てあか姉が「ほら、よく似合ってる」と言ってきたので思わず「うん」と答えてしまった。
しまった。自分で全会一致にしちゃった。
こうしてわたしの男としての尊厳と引き換えに、追加法案で出された上と下はある程度合わせないといけないという案も可決され、わたしの下着すらも女体化していくことが決定してしまいました。
「う~、頭いちゃーい」 ぐわんぐわんと頭の中で鐘が鳴り響く。ついでにちょっと気持ち悪い。 昨日はおいしいジュースを飲んでなんだかいい気分になってたけど、なんでこんなことになってるんだろう。「ゆきちゃん、昨日のことは何も覚えてないんですか?」 かの姉が心配そうに覗き込んできた。姉妹たちはまだ化粧や身支度に勤しんでいる。化粧の必要がない男の子でよかった。 そんなことはない。わたしに忘れるという概念は存在しない。 全部覚えている……けれど、結構まずいことをいってしまったなぁ。わたしを解放してください、か。 わたしはいったい何から解放されたいんだろうか。 みんなからの想い? 決まっているこれからの運命? それとも……この人生全てから?「ゆきちゃん? 具合が悪いならもう少し横になっていていいですよ。着替えだけここに置いておきますから、ゆきちゃんの荷物はこっちでまとめておきますね」 わたしの荷物の中にあるはずの着替えがなんで用意できるんだろう? と思ったら女性用だった。 そう言えば三日分の衣装はみんなで持ってきてるんだったっけ。わたしが用意した服の意味がなかったな。「ゆきちゃんの荷物、わたし達が持ちますからね」 ギクッとした。わたしの荷物……。昨日言ったことの意味も入ってるのかな。「どうしたんですか? その状態じゃ、大きな荷物を抱えるのは大変でしょう? 一人では大変でもみんなで分担すれば軽いものですよ」 穿ち過ぎか。だけど、みんなで分担すれば軽いもの……。 わたしの抱えてるものも、みんなで抱えれば少しは軽くなるのかな。そんなこと、出来るはずもないけれど。「ううん、大丈夫。自分の荷物は自分で持てるよ。それより昨日の後片付けをしないと」「そうやって無理ばかりしなくていいんですよ。甘えられるときは甘えてください。でないとわたし達も寂しくなってしまいます」 そうやってわたしのことで喜びを感じてくれるのは嬉しいんだけど。 どうすればみんなの執着心をわたしから逸らすことが出来るんだろう……。「ゆきちゃん、あなたの抱えているものが何かは分かりませんし、無理に聞こうとは思いませんけど、少しはわたし達のことも信用してはくれませんか?」「ん……」 決してかの姉たちの事を信用していないわけではない。むしろこれ以上ないほどに信頼感を持っている。 だけど
ホテルの部屋でお菓子パーティー。「それじゃ、女子会始めるぞ~」「「「いえーい!」」」 女子会じゃねー! ここに! 男の子が! いますから! 忘れんな!「まぁまぁゆきちゃん、見た目だけの話だから」 そうか、見た目だけならまぁ。 とでも言うと思ったか?「はい、ゆきちゃん」 かの姉にチョコレートを口に放り込まれた。うん、美味しい。「ゆき、餌付け」 違うわ。 まぁ甘いものを食べると大人しくはなるんだけど。これって餌付け? コンビニでかの姉の見つけたフルーツジュースが美味しそうだったので、いろんな味のものを買い込んできた。 わたしが最初に飲んだのはシャインマスカット。渋味のないブドウの味が爽やかで、あっという間に飲み干してしまった。おいちい。 ひよりもいよかんをすっかり飲んでしまっている。そんなに美味しかったのか。柑橘系好きだもんねぇ。 あか姉はパイナップル。普通のジュースなんだけどあか姉が飲むと独特だなぁと思ってしまうのはなんでだろう。 でも不思議なことにこのジュースを飲んでると、塩気の物がほしくなるんだよね。なんでだろ。 梨味のジュースを飲みながらより姉の買ってきたビーフジャーキーをガジガジ。普段はこういうものをあんまり食べないんだけど、体が塩分を欲しているような気がする。「ゆきちゃ~ん、なんだか気持ちよくなってきちゃった~」 そう言ってひよりがしな垂れかかってきた。なんか最近こういうシチュエーションになったことがあるような気もするけど、まぁいいか。楽しいし。 梨味のジュースもすぐに飲み終わり、次に手に取ったのは白桃。桃の味ってなんだか優しくて懐かしい気持ちになるよね。「こんなおいしいジュース初めてかも~。地元にも売ってるのかなぁ」 缶を眺めて商品名を確認。なるほど、日本のプレミアムということで産地の名前が記載されている。わたしが今飲んでる白桃は福島県産なのね。 震災から復興してる街を応援するためにもどんどん飲まないと。「わたしなんだか熱くなってきたかも。少し脱ごうっと」 女装して出かけていたのでインナーに来ていたのはキャミソール。「あははは。男の子なのにキャミソールって! おかしー!」 自分の姿が妙におかしくなってしまい大爆笑。なんだか気分もいいし、下も脱いじゃおう。「あははは! キャミにドロワーって! どこ
「ふわぁ~気持ちいい~」 フラフラのより姉。「あははは! よろこさん酔いすぎです~」 かの姉、あんたもだよ。誰だよろこって。呂律が回ってねー。 わたしがより姉に肩を貸し、かの姉にはあか姉が肩を貸している。ひよりにはお水と万が一に備えてのエチケット袋を用意させてある。「真っすぐ歩け酔っ払いども!」「あたしは真っすぐ歩いてるぞ~。道が曲がりくねってるのが悪いんだぁ」「そうですよねぇ。S字クランクが連続してます~。教習所ですかぁ?」 一般道だよ。道もこれ以上ないくらい真っすぐだよ。 酔っ払いどもをどうにか電車に押し込み、ホッと一息。Suicaくらい自分で出せっての。 電車内は人でごった返している。地元の球団のユニホームやメガホンを持った人が多いのは試合でもあったのかな? そういえば今年は成績が良くて、優勝も視野に入ってるんだっけ。野球はあんまり詳しくないから分かんないけど。「ちょっとより姉。ちゃんと立って。電車内で座り込んだらダメだって」 足に力が入っていないのか、放っておくとずりずりと沈み込んでいってしまう。「ゆき~だっこ~」 人がいっぱいの車内で何言ってんだ。「あれ、YUKIちゃんやん」「ほんまや。生で見たらめっちゃ可愛い」「やっぱり姉ちゃん達と仲ええんやなぁ」「YUKIちゃんって男の娘やろ? ハーレムやん」 ハ、ハーレム!? そ、そんな風に見えるのか? アラブの石油王じゃあるまいし……。「そうかな。どう見ても百合にしか見えやんよ」「確かに! 百合の園やわ」 ですよねぇ。知ってました。「そういやユニバのナイトショーに出てたんやろ? うちも見に行きたかったわぁ」「ほんまに? それは行きたかったな。またやってくれへんのかな」「急遽決まったみたいやし、無理ちゃうかな」 漏れ聞こえてくる情報からすると、先日のナイトショーは結構な評判になっているようだ。 またやって欲しいという声はありがたいけど……。「ゆきちゃんよかったね。好評だったみたいじゃん」「……そうだね。みんなが楽しんでくれたならよかったよ」「また、やりたいんじゃないの?」「ううん、そんなことないよ。あの日一日で十分だよ」 わたしは本当に嘘つきだ。本当はステージに立ってみんなに歌声を届けたい。 だけど、わたしにはその機会は永遠に訪れることはないんだ。「ゆきちゃ
スイーツ巡りを堪能した後、腹ごなしも兼ねてあちこちを散策して回った。 普段はあまり行かないゲーセンでリズムゲーをしたり、ボーリングやビリヤードで体を動かして消化を促す。 三時間もする頃にはお腹が空いてきた。「もう腹減ったのかよ。どんだけ胃腸が丈夫なんだ」「健康優良児と言ってくれるかな」「まぁいいけどよ。それで、何を食べたいか決めてあるのか?」 今日出かける前に、それぞれ何を食べたいかを決めておくようにと言われている。 わたしもいろいろ探してたんだけど、さすが大阪。食べたいものがいろいろありすぎて困っちゃう。「わたしはまだ決めきれてない……」「なんだ、いつも率先して決めるゆきにしては珍しいな」 だってどれも美味しそうなんだもの。「わたしはお好み焼きが食べたいです」「またかよ! 楓乃子は昼にも食べてただろうが。どんだけ粉もんが好きなんだ」 わたしも一口もらったし、お好み焼きはどっちかというとお昼ごはんにでも食べたいかな。「もつ鍋」「相変わらず選択が渋いな、茜。たしかに美味そうだな」 もつ鍋は候補に入ってなかったけど、確かに美味しそう! 悩みが増えてしまった。「わたしはね! 串カツが食べたいなー!」 それそれ! 大阪といえば串カツだよねー。でもてっちりとか、居酒屋で土手焼きなんかも美味しそうなんだよね。「ひよりはあたしと同じだな。それで、ゆきはどうする? 今のところ串カツに二票だが」「うーん、うーん」「どんだけ悩んでるんだ。ちなみに候補はいくつあるんだ?」「居酒屋てっちりもつ鍋串カツかすうどんイカ焼き中華肉吸いたこ焼き……」「待て待て待て。いくつ出てくんだよ。呪文みたいになってるじゃねーか」 体がいくつも欲しい。「ゆきの候補にもあったし、二票入ってるし、串カツにするか。ゆきも別に文句はねーだろ?」 あの呪文をちゃんと聞きとってたのか。より姉もやるな。「もちろん! ソースは二度漬け禁止だからね」「それくらい知ってるっての。全体をひたひたに漬けて食べるんだろ」 より姉のことだから何度もじゃぶじゃぶ漬けるんじゃないかと心配だったけど、それくらいは知っているようだ。「それじゃ、さっそく向かおうか! お店はあたしが探してあるからよ」 おぉ、より姉がリーダーシップを発揮している。 さすが長女、頼もしい。 わたし達は
「うん、美味しそう!」 ずらりと並んだ多種多様な食べ物。 普段あまり口にすることのないいろんな料理を前にして、期待を隠せないわたし達。 わたしが注文したのはボタニカリー。 鶏がらスープに玉ねぎ、野菜、スパイス、ハーブが煮込まれていてスパイシーで美味しいし、副菜がアートのように盛り付けられている。 より姉はシンガポールチキンライス。 かの姉はお好み焼き。 あか姉はキーマカレー。 ひよりはハラミ重と黒毛和牛フィレステーキ トリュフがけ。「ステーキはみんなで食べようね」 そう言って購入しようとしているのはいいけれど、お値段がべらぼうに高い!「ちょっとひより、お小遣い大丈夫なの?」「そろそろなくなりそうだから、ゆきちゃんに借りないとダメかも」 そう言って苦笑いするひより。苦しいなら無理してステーキなんて注文しなくていいのに。「だってみんなでシェアするもの欲しいじゃない」 そんな可愛らしいセリフを言われては止めることもできない。 もう、みんなのことを考えてくれるのは嬉しいけど、やりすぎだよ。「そのステーキはわたしが買うから。ひよりはこの後に行くデザートでお金を使いなよ」「そんな悪いよ。わたしが勝手に買おうとしてるだけなんだし」「みんなのためでしょ? わたしもみんなと食べたいから買うだけだよ」 みんなで食べるものを末っ子に負担させるというのもなかなかに目覚めが悪い。 ここは一番経済力のあるわたしが出してもみんなから異論は出ないだろう。「ゆきちゃん、ありがとう」「いいんだよ。どれも美味しそうだね」「うん!」 元気よく返事をするひより。ほんとに良い子だ。 フィレステーキも含め、みんなでシェアした料理を堪能してお昼ご飯の時間は過ぎていった。「さて、いよいよ今日の本番だね!」「昼飯食ったばっかじゃねーか。もう食べ歩きすんのか?」「もちろん! 時間は有限、甘いものは別腹! 時間の許す限り食べつくすよ!」 すでに候補は三つほど見繕ってある。あとは観光がてらにあちこち探し回るのもいいだろう。 ということで最初に向かうはハービスプラザ四階にあるチョコレート専門店。 わたしはショコラパフェ、ひよりはチョコラータケーキ、あか姉はタルト・オ・ショコラ。 より姉とかの姉はハーブティーのみ。「せっかくスイーツを食べに来てるのにもったい
大阪旅行も半分を過ぎてしまった。 明日にはもう帰りの電車に乗っているのかと思うと、少し寂しいものがある。考えてみればいろんなことがあったな。 たくさんのことがありすぎて、まだ四日目だというのが信じられないくらい。もう二週間近く経ったような……。そんなわけないよね。 今日はいよいよ食べ歩きの日……なんだけどまだみんな眠っている。 とっくに朝ごはんの時間は過ぎており、誰も起きる気配がないので一人で食べに行った。 なんでこんなことになったかというと。「はい、ひよりさん、茜、お茶入れましたよ」「あ、かの姉ありがと。ん? なんだか変な味のするお茶だね」「これは……おいしい」 かの姉が淹れたのはただの烏龍茶のはずなんだけど。変な味のする烏龍茶ってなんだろう。 まぁみんな機嫌よく遊んでるし、わたしもテレビを見ていよう。 と、思っていたんだけど。 しばらく時間が経って。「あはははは! なんだかわかんないけどおかしー!」「えへへへへ。ひよりご機嫌」 いや二人ともご機嫌になってるし。何があった。「ゆきちゃ~ん」 突然ひよりが飛びついてきた。めっちゃ懐いてくるし。って酒くっさ!「ちょっとかの姉! 二人に何飲ませたの!?」 犯人はやつしかいない。さっき飲ませてた烏龍茶に何かあるはずだ。「わたしは依子さんが作ったお茶を二人にお渡ししただけですよ~」 なんだかいつも以上にフワフワした感じで応えるかの姉。この状況で嘘をつくとは考えにくい。 となると下手人は決まったようなものだ。「より姉?」「なんだよ。あたしは楓乃子が飲むと思ってウーロンハイを作ってやっただけだっての~」 やっぱりお酒じゃねーか! しかも微妙にどっちが悪いと決めにくい状況にしてやがる。狙ってるのか?「そんなことよりゆきも飲めよ~」「未成年に勧めるなって前から言ってるでしょ! 飲ませるのも犯罪なんだからね!」 ほんとにこの酔っ払いどもめ。あか姉とひよりも出来上がってしまったのか、上機嫌で笑っている。何が可笑しいのやら、ちょっと怖い。「さっきのお茶もっと欲しい」「あか姉はそれ以上のんじゃダメだってば!」 おかわりをせがんでくるあか姉を阻止。ひよりも飲みたそうにしてるけど、ダメだからね。 だけど初めて飲んだお酒はなかなか体から抜けないのか、その後もしばらくどんちゃん騒ぎ